麻酔記録ソフト導入にpaperChartを選択するメリット・デメリット

弊社ではこれまで麻酔記録ソフト paperChart の導入支援を何件か手がけてきましたが、その経験から paperChart の優れている点、問題点など色々と見えてきたことがあります。

この記事では、そういった点を paperChart のメリット・デメリットに分けてまとめてみたいと思います。

あくまでシステム開発を手掛ける人間の視点で見た意見となりますが、paperChart 導入等検討されている方の少しでも参考にして頂ければ幸いです。

paperChart のメリット

まずは paperChart のメリットの面から特徴的な点をピックアップしてみます。

フリーソフトウェアである

paperChart はフリーソフトウェアとして公開されているソフトなので、誰でも無料で使うことができます。

フリーソフトウェアと聞くと、メリットばかりではなく品質や保守への不安を感じる方もいらっしゃると思いますが、すでに多くの導入実績があり(paperChart 使用施設一覧)、他の商用ソフトウェアと比較しても安定して動作するという評価の高いソフトウェアです。

もし環境構築やサポートに不安がある場合は、弊社のようなサポート業者を利用することで品質を担保するやり方もあります。大手ベンダーの麻酔記録ソフトウェアがかなり高額なことを踏まえると、こういったサポートを加味したとしてもかなりコストメリットがある選択肢になることと思います。

優れたユーザビリティ

paperChart は神戸海星病院麻酔科の故越川正嗣先生が作成されたソフトウェアです。

実際の現場を良く知る先生自身により作られているため、操作手順・ユーザーインターフェース・データ項目などとても直感的で分かりやすいものになっています。(越川先生は“おばちゃん看護師さんのやることを見て、操作方法を考えた”と話されていたそうです。)

弊社ではこれまで paperChart 導入を何件かサポートしてきましたが、実際に現場の先生方にお使い頂くと、あまり詳しい説明をしなくともすぐ操作に慣れて頂ける印象があります。

既存のアナログ業務を IT に移行するケースでは、とかく実務担当者の学習コストが問題になることが多いのですが、そのような障壁が低いことは非常に大きなメリットかと思います。

対応機種が多い

paperChart との接続動作確認が取れている機器として、以下の生体情報モニタ・シリンジポンプ機器が公式マニュアルに掲載されています。

  • Philips IntelliVue
  • GE(marquette) Solar8000/Eagle
  • GE(marquette) DASH
  • GE(DatexOhmeda) S/5
  • 日本光電 BSM5100
  • 日本光電 BSS9800
  • オムロン・コーリン BP608 BP508
  • Draeger Infinity(Gamma/Delta/Kappa/Vista series)
  • フクダ電子 DS-7xxxOR/DS-85xx
  • BIS Aspect2000
  • 心拍出量モニタ Vigileo/Vigilance
  • Draeger 麻酔器(Fabius,Tiro,Julian,Cato)
  • テルモ シリンジ/輸液ポンプ(TE-371/352/332/312/171/161/131

主要メーカーを中心にこれだけ多くの機種に対応していることは大きな特徴と言えます。

ちなみに掲載されていない型番でも、前述の機種の後継機で通信データ仕様がほぼ同じといった場合はカスタマイズによって対応できる場合もありますので、一度メーカーや弊社のようなサポート業者に確認してみることをお勧めします。

カスタマイズ性が高い

paperChart は画面レイアウト、各操作時の動作、データの計算ロジックなど、多くの機能がテキストベースの設定ファイルによって動作が記述されており、その設定ファイルを編集することで様々なカスタマイズができる設計になっています。

実際にカスタマイズをしてみると分かりますが、こんなに細かい部分まで手を入れられるのか・・・とその柔軟な作りには同じ開発者の立場からも感心してしまうほどです。

paperChart を導入するような場合、paperChart 単体のみで利用するケースだけではなく電子カルテ等外部システムから患者情報を取り込んだり、記録した麻酔症例データを JSA 麻酔台帳ソフト(JSA PIMS)に転送したり、といった外部との連携も含めた運用が要求されるケースは多々ありますが、paperChart であればその要件に合わせたカスタマイズを適宜施すことで、色々なシステム構成を実現することも可能になります。

そういった高いカスタマイズ性、柔軟性を兼ね備えているところも paperChart の魅力の一つです。

動作が軽く安定している

paperChart は動作対象 OS が Windows7/Vista/XP/2000 と古い OS から対応していることでも分かるように、高スペックなものでなくても市販されている一般的な PC で問題なく動作します。また全ての動作がとてもサクサク軽快に動くので、高機能な製品にありがちな処理が重くて画面がフリーズしてしまう・・・といった現象もほとんど起きません。

安定して動作することにも評判があります。弊社の稼働実績からも paperChart 自体でトラブルが発生することはほとんどなく、何か起きるにしてもケーブルが外れていた、周辺機器の不具合といった外部要因のトラブルの方が多いようです。

ソフトウェアがストレス無く安定して動作することは、現場のユーザーにとっても、システム管理者にとっても、導入にあたって大きく評価できるポイントではないでしょうか。

シンプルなシステム構成

paperChart は公式サイトからダウンロードしたファイルを解凍して適宜フォルダに配置するだけで、すぐ使用することができるという非常にシンプルなシステム構成で作られています。別のデータベースソフトやアプリケーションをインストールする必要も無いので、いわゆる Windows 環境を汚すようなこともありません。

設定ファイルや麻酔記録等のデータも全てファイル単位で管理されているので、バックアップや復旧といった作業も分かりやすくシンプルに運用することができます。

ソフトウェア自体がフリーソフトというだけでなく、こういった導入・保守・運用費用に直結する作業コストも抑えられるところがまた paperChart の優れた点ではないかと思います。

paperChart のデメリット

次に paperChart のデメリットと考えられる点を挙げてみます。

サポートが無い

paperChart はフリーソフトですので、商用ソフトのようにサポートサービスが付いているわけではなく、基本的には自身の手でセットアップから運用まで準備を行う必要があります。

下記のpaperChart 公式サイト情報交換サイトから基本的な情報は十分入手することはできますが、普段から IT に慣れている方でなければ一から十までシステム環境を構築するのはなかなか簡単なことではないでしょう。

ただし、前述もしたように paperChart の導入・カスタマイズ・運用等をサポートする業者が各地に存在します。(弊社もその業者の一つです。)

こういった業者の力を適材適所に活用することで、サポート不足を解消しながら安定した導入を実現することは可能です。

新規開発が止まっている

開発者の越川先生は亡くなられており、ソースコードも現在公開されていないため、paperChart は新規の開発が行われていない状態です。

開発が止まっているとはいえ、非公式ながら Windows 10 上で動作する事例が報告されていたり、元々完成度が高くカスタマイズ性の高い作りになっていること、また最近では仮想環境上で別の OS を動作させる技術が確立されている等の背景があり、少なくともここ数年の内に paperChart が使えなくなるといったことは考えにくいでしょう。

それでもできる限り長く使いたいと検討されている方にとっては、将来の不安を少しでも拭えるに越したことはありません。

この素晴らしいソフトウェアを多くの方に長く使って頂くために今後どういう対応を取っていけるのか、paperChart に関わる者にとっての大きな課題と言えるでしょう。

動作対象 OS が Windows のみ

paperChart が動作対応しているのは Windows OS のみなので、Mac や iPad といった環境で利用することはできません。

特に iPad のような使い勝手の良いタブレット端末で動作させられるようになると、新たな活用法が生み出されるなどして paperChart の可能性もより広がっていくかもしれません。

まとめ

以上、paperChart の主なメリット・デメリットを取り上げてみました。

あらためて取り上げた内容をまとめてみます。

  • メリット
    • フリーソフトウェアである
    • 優れたユーザビリティ
    • 対応機種が多い
    • カスタマイズ性が高い
    • 動作が軽く安定している
    • シンプルなシステム構成
  • デメリット
    • サポートが無い
    • 新規開発が止まっている
    • 動作対象 OS が Windows のみ

質・量ともメリットの方が多い内容となりましたが、決して導入に関わっている立場という贔屓目ではなく、 paperChart はとても優れた点の多いソフトウェアだと思います。

考えられるデメリットもいくつか挙げてみましたが、導入・運用において必ずしも障害になるわけではなく、やり方によって回避できる程度のものがほとんどです。

今後 paperChart の導入を考えている方、他の麻酔記録ソフトとの比較をされている方がおりましたら、この情報を検討材料の一つにして頂ければと思います。

弊社では paperChart の導入・カスタマイズ・運用のサポートをさせて頂いておりますので、もし他にご不明点や相談等ございましたらぜひお気軽に弊社までお問い合わせください。